鉄骨製品検査を実施するうえでの周辺温度、検体温度について、JASS6や鉄骨精度測定指針にも特に、記載がないので、自分なりの考えをまとめてみた。
というのも、自分はもともと化学系(反応工学)の出身なのだが、この分野では温度というファクターには結構神経質になる。温度が変化すると反応速度や反応機構に少なからず影響するからで、温度を無視すると、どのようなことが起きているのか全くもって怪しげになるからである。
北海道といえども夏は外気温で40℃近くになるし、反対に冬は-30℃近くまで冷える。その温度差は実に70℃なのだ。しかも晴天の炎天下に置かれた鉄骨の温度は外気温が30℃くらいであっても余裕で60℃程度にはなる。
モロに外で検査をすることは「全数検査」以外にはないし、大体は工場の中、直射日光のあたらないような場所で検査を実施する。それでもファブの工場で冷暖房完備の工場は滅多にないし、広い工場の中がすべて均一の温度分布になっているとは限らない。
つまり、製造工程での精度測定値と検査工程での精度測定値にはそれなりのズレが生じる可能性が生まれてくる。
本来なら、測定指針に寸法精度の測定条件(外気温や材の温度)や、補正計算式の記載があって然るべきだと思う。
鋼材は温度が1K(1℃)上昇すると長さ1m当たり約 10 μm膨張し、逆に1K低下すれば約 10 μm収縮する。
たとえば設計値10,000mmの梁で考えると5℃の工場で加工された際、寸法値は9,998mmであったとする。これは設計値-2mmなので管理許容差内である。
この梁の受入検査を8月の中旬に実施。全数検査のため工場外の検査ヤードに製品を並べての検査だった。その時の外気温が38℃、材料温度を放射温度計で測定したところ65℃だったとする。
加工時の外気温は5℃なので、特に余熱は必要ないとされるが、外気温と材の温度は同じとは限らない。空気の熱容量と鋼の熱容量は全く違う。
工場操業前1時間からジェットヒーターを稼働し工場内の気温を5℃としたとしても鋼材の温度はそれよりも相当低いと予想できるが、余熱の指示は「気温」が-5℃以上、5℃未満の場合である。材料温度ではない。
であることから、製造時に寸法測定した時の材料温度は-5℃だったかもしれない。
加工時の材の温度が実は-5℃だったとすると、検査時での材の温度差とは実に70℃である。梁の長さは10mであるから約7mm膨張すると考えられる。加工時に9,998mmだった梁は検査時には10,005mmとなっている。
梁の長さの管理許容差は±3mm、限界許容差は±4mmであるから、+5mmでは不適合品という判定になるのである。この場合、ほとんどの鉄骨製品は不適合になるだろう。
では温度条件や補正方法が明記されているならどうだろう。建物の供用後は、冷暖房の影響や外壁に覆われることなどを考えると極端に温度が変化しないと仮定できるので、かりに温度は25℃とする。測定時の外気温と材の温度は25℃とし、この値から外れるときは、25℃の値に換算するとすれば良いのである。
計算式は簡単だ
L25=LT× (T-25) × 10
L25:材温度25℃の時の長さ[mm]
LT:材温度T℃の時の長さ[mm]
T:測定時の材温度[℃]
ちなみに、「溶接作業は作業場所の気温が-5℃未満では低温割れ、脆性化、強度低下の恐れがあるので行ってはならない。-5℃以上かつ5℃未満では余熱を行うこと」となっている。ここでも指示対象は「気温」であって「材温」ではない。
空気の熱容量は1.0[kJ/kg・K]、鉄は0.45[kJ/kg・K]と20倍以上異なる。
作業環境の温度を指定することにはあまり意味はない、本来なら材の温度を管理すべきなのである。