品質管理・・・自工程完結の大切さ

 鉄骨ファブに限らず、製造業において最も重要なポイントは「品質管理」だと思います。いくら価格が安くても、不良品だらけであれば、安いことのアドバンテージはなくなりますし、むしろトラブルの解決に時間とコストがとられて結果としてずいぶん高い買い物になります。

 世の中では悪い評判は良い評判の6倍の速度で拡がると言われます。6倍かどうかは別として、確かに悪評は良い評判より早く拡がることは確かです。
 不良品を掴まされた客は、不良品を製造したメーカーに気分を害しているだろうし、メーカーに痛い目を合わせてやろうと思っているかもしれません。ですから、周りの同業者に「〇〇の製品は安いけどダメだよ」と触れ回ります。
 反対に、良い製品だとしたら、周りに秘密にしておいたほうが、自分だけがその良い製品を独占できますし、値段も上がりにくいと考えるでしょう。
 ですから、製造業では、悪い評判が立たないように普段から「品質管理」には神経をとがらせます。

 その「品質管理」ですが、経営者や管理職だけが気を付けていても全く機能しません。すべての従業員、一人ひとりが油断なく、改善していかなければ、あっという間に腐敗していまう「足の速い生もの」です。
 「すべての従業員」とあえて表現したのは、実作業を担当しているパートやアルバイトが、むしろ最も重要なポジションにいるからです。まず、個々の従業員が各々の工程の品質管理を完結させないと、ミスは伝搬、蓄積して、すべての製品が高い不適合率をはらんだ製品になってしまいます。

 「次工程はお客様」というのを聞いたことがあるかと思います。同じ会社の同僚とはいえ、次工程では自分の仕事が評価されます。ミスがあれば、突き返されます。
 つまり、品質管理のスタートは「自工程完結」・「次工程はお客様」にあると思っています。
 この自工程完結がなされていなければ、品質管理部門が不適合品を見つけたとしても、不適合率の低下、品質の向上は絶対に実現しませんし、品質管理システムの改善も不可能です。

 以前、自分が勤めていたファブは非常に製造ミスの多いところでした。あまりにも不適合品が多く、納期に間に合わなかったり、建方工事を遅らせることになることが頻発し、毎月、管理職が改善策についての会議を行っていました。
 その会議では工場長が現場の作業員に聞き取りをし、なぜミスを犯したのかを聞き取って発表していましたが、自分には全く無意味な時間だったとしか思えませんでした。
 なぜなら、ミスの原因のほとんどが「思い込みだった」、「図面を読み間違えた」、「疲れていた」の三つであり、その対策が「何度も確認をする」「注意深くかつ慎重に」、「無理な残業はしない」だったからです。
 そもそも、同じ人間が何度確認をしても、正しいと思い込んでいるのですから、間違いは見つかりませんし、「無理な残業」はミスが重なって作り直しが多くなりすぎる上に、自社工場の加工能力を考えないで仕事を受注するためですから、どちらも実行不可能もしくは全く効果は望めない方策だからです。
 その上、そのアイディアを聞きながらほかの社長や専務は何の疑問も抱かないうえに、納品先からクレームがつくと、社長が担当者を集めて叱責するだけでした。自分たち経営陣には何の負い目もないという態度です。
 その結果、当然ですが何度、会議を重ねても何一つ改善されることはありませんでした。

 なぜ、このような状況が許されていたのかというと、そのファブの品質管理に対するスタンスが
●「品質管理は出荷前検査のみで十分であり工程途中で発生するミスについては問題ではない」
●「飽くまで検査は検査担当者が行うものであって、作業員が自主検査することは加工効率が低下するので実施しない」
●「製造は製造課、品質管理と検査は品質管理課」
●「どんなに仕事が重なっても納期第一」
というものだったからです。
 その結果、工場には「次工程はお客様」という意識は皆無で、「どうせ、間違っても検査員が見つけるだろう」という意識が染みついていましたし、管理職や経営者も不適合品の発生は仕方がない、検査員が見つけないのが悪い、という意識で、品質管理システムを改善することには無関心でした。

 実は、1回目の会議の段階で、現場からのミスの情報(ミスの種類、発生した経緯等)は吸い上げられていたのですから、社長をはじめとする管理職サイドが(不適合の発生、見逃しを防ぐための)品質管理システムを構築することは十分可能でしたし、しなくてはならなかったのです。
 たとえば、「現場におけるポカミスはどんなに確認しようと、注意しようと、絶対に起きるもの」とするのが当然です。「慎重かつ注意深く」すればミスは少しは減少すると思いますが、大きく減ることは望めません。
 ならば、ミスは必ず起こるものとして、その対策をしたほうが現実的です。
 しかし、そのファブでは、そのどちらも実施しませんでした。

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