UTの資格試験ではデジタル探傷器を使うのがポピュラーですが、実技試験でも試験体の板厚を計測して探傷機の板厚設定をそれに合わせるように調整し、探傷を行ったと思います。
非常に便利な機能です。ただ、実務となると、いろいろな板厚のものを限られた時間内で探傷していかなくてはなりません。そうなると、いちいち探傷機の板厚設定を変える余裕はありませんから、板厚を”infini(無限大)”にしています。
このテクニックはお世話になった検査屋さんから教えてもらったのですが、これは底面近傍の欠陥と垂れこみの判別をする上でも優位になります。
ただし、こうすると板厚設定を変える手間はなくなりますが、得られたエコーが直射エコーなのか、1回反射エコーなのかを考える必要が出てきます。
そのためには、ヒントとなる反射エコーの位置をあらかじめ確認しておかなくてはいけません(これなんかはアナログ器で探傷をしていた方ならではのテクニックなのでしょう)。
そこで、ヒントとするのがH形鋼であれば底面角からのエコーや、鋼管であればシーム部のエコーです。これらからの反射エコーは板厚を示しますので、このエコーより前の範囲が直射での範囲になりますし、このエコーとこのエコーの位置を2倍にした区間が1回反射での範囲になります。
直射探傷だけでは探傷面側(表面から浅いところ)にあるきずは見つけることはできませんから、反対側からの探傷ができない場合はどうしても1回反射を使う必要が出てきます。
それと、直射か1回反射かを考えないといけないのはいわゆる垂れこみからのエコーです。これは探傷機の板厚設定に正直に板厚の値を入力していた場合、底面から1~2㎟の箇所にある内部きずと誤認識されてしまいます。
垂れこみの発生する場所では溶接によって裏当てや裏波部と一体化しているために超音波は反射しませんから、基線近傍(k≒0)で板厚よりわずかに深い位置(板厚設定している場合は、わずかに浅い位置)より反射してくるエコーは1回反射による内部きずエコーではなく垂れこみと判断できます。そのことを意識しておけば、板厚設定をしていても気付くのですが、時間に追われていると、内部欠陥として補修指示をだしてしまう恐れもあります。
いずれにしろ、目に見えない溶接部内部の探傷では、頭のなかでいろいろ妄想しながら検査をすることになります。
例えば、上の図では、板厚ラインからの距離は「垂れこみ端部」と「きず」は同じです。
仮に探傷器に板厚を設定していれば、垂れこみ端部からの直射エコーは1回反射でのきずエコーとして表示されますが、図中の赤い破線位置では溶接によって裏当てが一体化しているので超音波は反射できません。きずエコーを得るには青い点線で示す直射波を当てることになりますが、探触子-きず距離はわずかな差なので判別が難しいのです。一方、板厚を”infini”にしておけば実際に反射した場所の深さ距離がわかります。