建築鉄骨の製造では、様々な検査が実施されます。
まず、鉄骨製作は施工図の作図、工作図の作図から始まりますが、それぞれの図面について、「検図」が行われます。検図を実施せずに製造部門に図面を出してしまうと、不適合品が信じられない確率で出現します。ですから、製造の基礎の基礎が図面の作図と検図です。この部分がしっかりしていない業者の製品は言わずもがなロクなものではありません。
図面が出来上がったら、材料の発注、材料納品となります。ここでも、材料受入検査が行われます。材料が工場に搬入される際、鋼材卸からミルシート(Mill Test Report)が提出されます。ミルシートにはその鋼材の化学組成などが記載されていて、注文通りの材質の鋼材であるかどうかが確認できます。
気を遣う(神経質な)業者であれば、ミルシートのチェックと併せて、サムスチールチェッカーでミルシートが間違っていないかをチェックすることもあります。
製造工程は、鋼材の鋸切断、ボルト孔あけ、組立溶接と進んでいきますが、組立溶接が終了した時点で溶接前検査(組立後検査、中間検査)を実施します。ここでは大体の寸法、ボルト孔のずれ、孔径の確認、プレート類の取付位置の確認などを検査します。ここでミスが見つかれば前工程へフィードバックし修正を指示しますし、次工程で無駄な加工をすることも避けられます。
組立後検査に合格したら、次はいよいよ本溶接工程となります。本溶接を行うと柱などは組立溶接後の寸法より幾分縮みます。溶接金属が溶接後収縮するのでそれに引っ張られてのことですが、組立時にこれを加味して加工しないと本溶接後に寸法誤差が許容差をオーバーして不適合となります。
また、本溶接後の検査では寸法精度検査と同時に溶接部外観検査、超音波探傷試験を実施します。
ここまでは製造業者での社内(自主)検査という位置付けです。社内自主検査と併せて要求されるのが第三者検査というもので、ほぼすべての物件で要求されます。これは施工者または製造者が第三者検査機関に委託して実施する検査です(このときの検査水準については、「AOQL4.0%、第6水準って何?」に書いてあるので、そちらをご覧ください)。製造業者としては、自分たちの検査は信用しないのか!という気にもなるでしょうが、施主としてはとても高い買い物なので、手放しで製造業者を信用する訳にはいかないのでず。中立で公正な立場の検査者が必要なのです。
製造が進み、全数もしくはある程度の品数が完成した時点で施工者の受入検査が実施されます。受入検査では社内検査の検査結果データの書類検査を実施します。書類検査で合格すれば良しとする施工者もいれば、書類検査結果によらず対物検査を実施する施工者もいます。多くは両方実施するパターンで、書類検査1ならびに対物検査2を実施と特記仕様書に明記されています。当然、この時に第三者検査機関の担当者も同席し、検査結果を報告します。
受入検査は監理者(設計者)と施工者が実施し、製造業者はこれに協力するとなっているのですが、実際は、製品をヤードに並べ、書類を作るのは製造業者の仕事です。この書類の作成は少し面倒ですので、書類検査1と対物検査2の様式(エクセル形式)を無料でダウンロードできるようにしました。よければ使ってみてください。
受け入れ検査の後、製品は錆止め塗装や鍍金され製品として出荷されますが、錆止め塗装後も塗装品質検査や鍍金品質検査を実施します。
ここまでくれば、後は出荷を待つだけです。
実際の工場では組立工程と本溶接工程(場合によっては塗装工程)が並行して進むので、品質管理をしっかり行う製造業者には何人も検査担当者がいます。組立工程検査、本溶接後の寸法精度検査、溶接外観検査、超音波探傷試験を一人の検査担当者が同時に実施することは物理的に不可能です。
このことから分かるように検査担当者の人数が製造業者の質を判断する一番分かりやすい指標です。建築鉄骨製品検査技術者が最低2名、非破壊検査技術者 UT2か建築鉄骨超音波検査技術者が最低1名いれば合格です。反対に検査担当者が一人しかいないような業者は天ぷら検査(⇐でっちあげるから天ぷら)をするかもと思っていいです。
更に求めるなら、企業として品質管理マネジメント実行していれば間違いないと思います。ISO-9001の認証を受けていなくても良いのですが、「どのような思想・方法で品質管理マネジメントを行っているのか」、「各部署はどのように横断的連携を取っているのか」から見極めることができます。
しっかりした製造業者は品質検査は不適合品を発見できても不適合品を減らすことができないこと、全社的取り組みを行わなければ品質向上、利益向上が図れないことを経営者自身が理解しています。