UTを悩ませる35°開先

 先日、いつもお世話になっているベテランの検査技術者の方から教えていただいたお話を紹介しようと思います。

 鉄骨の完全溶け込み溶接部は超音波探傷試験の対象ですが、一般的に完全溶け込み溶接部は開先角度35°のレ型開先(開先のことをグルーブとも言います)を適用します。
 このときの開先角度35°が超音波探傷試験において厄介な挙動を生むのです。

 鉄骨溶接部における超音波探傷試験は斜角一探触子法というのを適用します。斜角探傷では探触子の超音波入射角は45°~70°で行いますが、一般には70°です。
 この入射角70°と開先角度35°という組み合わせが厄介ポイントなのです。

 完全溶け込み溶接で欠陥が生じやすい場所というのが開先面側と壁側だといわれています。
 この内、開先面側の欠陥(融合不良や溶込み不良)は開先角度に沿った傾きを持っていて、この欠陥に超音波が当たると、超音波は傾きを持った欠陥面に反射します。
 下の図1を見てください。超音波ビームはある程度の広がりを持っているので、欠陥の端部から少し反射波が返ってきます(緑色の破線)が、大部分は下のほうに弾かれていきます(緑色の実線)。

図1

 超音波の入射角が70°で、開先角度が35°の場合、下の図のように開先面の欠陥で弾かれた超音波はちょうど底面に90°の角度で進んでいきます。
 こうなると底面からのエコーがドカン!と帰ってきます。
 探傷機の画面に表示されるビーム路程やy値は飽くまで超音波が直進した場合の数値なので、そのまま読み取ると溶接内部に大きな欠陥(赤いイガイガ虫)があるように見えてしまいます。
 しかし、欠陥の補修のためにエアガウジングで掘っていってもそんなところに欠陥は見当たらないということが往々にして起こってしまいます。
 欠陥は開先面にあるので当然です。
 このような場合、超音波エコーを観察すると、底面から反射してくる大きなエコーの前に欠陥端部からの小さなエコーが立ち上がるのが特徴です(図2)。

図2

 このような時は、逆側や裏面から探傷するか、1回反射で確認すれば本当の位置が分かります(黄色の実線)。
 このような現象は、開先角度が35°の時にだけ起こり、30°や40°では生じません(図3)。

図3

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