断面1次モーメントの1次と断面2次モーメントの2次

 構造力学の学習をしていて、断面2次モーメントの項で「なぜ、距離の2乗なんだ」と思ったので、そのことについて書いてみた。
 断面2次モーメントについてネットで調べてみると「物体の曲がりやすさの指標」と「面積に距離の2乗をかけたもの」という2つがヒットするが、肝心な「なぜ距離の2乗か」と言うことを書いてあるサイトは非常に少ない。
 この傾向は構造力学の入門書レベルの書籍も同じだ。 そもそも、「断面二次モーメント」と言う言葉がよろしくない。「断面」、「二次」、「モーメント」という三つの単語が「曲がりにくさ」、「たわみにくさ」と直感的に結びつかない。まるで、麺にスープが絡まないラーメンを食べている感じ。

 では、英語では何と言うのか

moment of inertia of area

 日本語に訳すと「断面が持っている慣性モーメント」と言う。つまり曲げ力を外部から受けたときにその物体が曲がるまいとする力、つまり慣性モーメントのこと。

 また、こういう用語もある。

moment of area

 これは「断面(に関する回転)モーメント」といい、日本語で言うところの「断面1次モーメント」のこと。「慣性」という言葉は含まない。

 ではまず、断面1次モーメントとは何か。
 下図のような断面を持った物体を設定する。その断面を無数の微小部分に分けて、そのうちの代表を⊿aとする。物体はどの部分をとっても均質であり、力が釣り合って静止しているとする。

 物体の各微小部分に作用する回転モーメント $G$ の総和は以下の式で表現できる。$ρ$ は物体の密度とした。

$$G=ρ\sum_{i=0}^{\infty}⊿a_i⊿y_i$$

 上式の &\sum$ 項は全断面にわたって積分することに等しいので

$$G=ρ\int_Aydy$$

と表現でき、積分項を「断面一次モーメント」と呼ぶ。これはyが1次(1乗)だからである。
 断面一次モーメントには慣性は関わらないので、外国語では「断面(に関わる回転)モーメント」と言われる。ちなみに静止している物体では力が釣り合っているので $G=0$ である。

 次に、「断面二次モーメント」について。
 ここで、ある程度の長さのある長方形の断面形状の物体の真ん中をクレーンで持ち上げたシーンを思い描いて欲しい。迫力満点のやじろべえのような感じ。ちょうど吊り具の付けた箇所を凸の頂点として円弧状にたわむと予想できる。
 しかし、釣り上げられた物体は回転はしない。これは物体内部に現状を維持しようとする力(慣性)が作用しているからに他ならない。

 また、物体の変形を見ると、弾性変形の領域では凸形の上の方には引張力が生じて伸びるし、下の方では圧縮力が生じて縮む。

 そしてそれらは連続的に変化していくのでどこかに伸びも縮みもしない面があるはずで、そこを中立面(ちゅうりつめん、neutral plane)と言う。

 話を戻して、たわんだ物の変形(ひずみ)の大きさ($ε$)は下の式で表現できる。

$$ε=\frac{y}{r} ・・・(1)$$

 ここで
 $y$:中立面からの距離
 $r$:曲率半径(回転軸から中立面までの距離)

 前提としてH形鋼の内部はどの位置でも成分にムラがなくて均一であるということ。
 ひずみの大きさは元の量からどのくらい増減したかだから、本来は中立面の長さに対してどのくらい長く(もしくは短く)なったかだ。
 均質のものが円弧状にたわんでいれば回転軸を中心にした同心円であるから、中立面までの距離(つまり曲率半径$r$)とひずみの大きさを求めたい任意の面までの中立面からの距離$y$との比と同じになる(※回転軸から任意面までの距離を取ると増減分の大きさではなくて増減したあとの全量になるので注意)。

 そしてひずみの大きさと曲げ応力($σ$)は比例関係(曲げモーメントと曲げ応力は釣り合う。また、釣り合うためには曲げモーメントの増大に合わせて曲げ応力も大きくなる。)であるから、係数を$E$とすると$$σ=E・ε ・・・(2)$$と表現できる。

 次に(1)を(2)に代入すると$$σ=\frac{E}{r}・y$$となる。

 断面に作用する力[N]は作用する応力度[N/$m^2$]に面積[$m^2$]をかけたものなので

力(ちから)$=σ・a$

 またこの任意面に作用する曲げ応力(物体内部に生ずる曲げモーメント、外から加わる物体を曲げようとする力に、物体内部に発生する曲がるまいとする力)$B$は力に距離をかけたものなので、$$\begin{equation}\begin{split}B&=σ・a・y\\ \\&=\frac{E}{r}・y・a・y\\ \\&=\frac{E}{r}・a・y^2\end{split}\end{equation}$$となる。

 また、曲げ応力は中立面を中心に連続的に変化するので、対象断面の曲げ応力の総和はこの断面を微小領域に区分して、それぞれの微小領域の曲げ応力の総和になる。

 つまり$$\begin{equation}\begin{split}B_T&=\frac{E}{r}・a_1・y_1~^2+\frac{E}{r}・a_2・y_2~^2・・・\frac{E}{r}・a_n・y_n~^2\\ \\&=\frac{E}{r}\sum_{i=1}^{n}a_iy_i~^2・・・(3)\end{split}\end{equation}$$

 (3)の$\sum$項は断面全体について積分することをあらわしているので$$B_T=\frac{E}{r}\int_Ay^2dy$$と書き換えることができる。

 そして上式の積分項の中身が $y$ の2次(2乗)となっていることから「 断面二次モーメント( $I$ )」と呼ぶ。
 外国語では、断面形状が関わる慣性モーメントであることから「断面に関わる慣性モーメント」moment of inertia of area (E)、Moment d’inertie de la zone(F)と呼ばれる。

 日本では数式の見かけからの用語になっており、外国語ではそのものの中身からの用語になっている。個人的には「断面回転モーメント」、「断面慣性モーメント」の方が好きだな。

 

 

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