鉄骨の特徴の一つは、細かくカットした各素材を溶接し、いろいろな形の部材にできることです。
当然、曲げ加工も可能です。
一般的な建物の梁は直線ですが、勾配のきつい二重梁(上下の階をつなぐ梁)では仕口との接合の都合上ギザギザ形状となったり(稲妻梁と呼んだりします)、意匠的に半円形に加工された梁があったりします。
そんなときは、寸法精度はどこを計測すれば良いのか悩みます。鉄骨製品検査の教科書は標準的な測定方法しか書かれていませんから、そのような変則的な製品の寸法測定は検査技術者が自ら考えなくてはいけません。
そこで大事なのは、意味のある測定をすることです。そのためには、以下の三つことを考慮しなくてはなりません。
①どこの寸法精度が最も重要なのか。その次に重要なのはどこか。
②形状が図面通りかチェックするには、どこを計測するとよいのか。
③測定点には溶接ビードが被っていないか(想定する測定点は必要十分な精度で利用できるか)。
形状が設計図と大きく異なれば、当然、建物はまともに建たないですし、強度、耐震性に大きな問題が生じます。
だからと言って、いたずらに沢山の箇所を測定すれば良いかと言えば、答えはNoです。そんなことをすれば、不必要な計測ばかりが増えますし、反対に重要な計測を漏らす可能性もあります。時間もコストも無駄になります。
では、稲妻梁や半円形の梁はどこを計測すると良いか、考えてみましょう。
稲妻梁の場合
①梁のせいと、第一ボルト孔芯からの最小縁端距離を測ります。
②梁の長さを測るところですが、梁の形状も同時にチェックするため、赤いラインで示す対角線の長さを測ります。
この値が図面通りであれば全体の形状はおおむね正しいということになります。管理許容差は±3mm以内で良いでしょう。
そうであれば建物は十分組みあがります。稲妻梁の凹の形状は極端にばらつきが無ければ、母屋の調整で対応できます。
ただ、凹部の形状の正確さも記録したいですよね。これには多少の工夫が必要です。
というのも近傍で利用できそうな測定点(例えば梁の曲がりの点など)はもれなく溶接ビートや裏当て金が付いています。つまりそれらは測定点として利用できそうにありません。
ではクリアな測定点はどこでしょう。そうです、梁端部角の2ヶ所です。
そこで、
③曲尺、スコヤを使って、梁ウェブの中心線をケガキます。
④鋼製テープを使用して梁端部角から任意の長さのA点とB点を求めます。
⑤A-B間の直線距離を計測します。
この数値が図面上の数値と同じであれば凹部の形状は図面通りです。この管理許容差も±3mm以内で良いでしょう(せいについては公称800mm未満では±2㎜以内、800mm以上では±3mm)。
稲妻梁寸法測定の全体の流れをアニメーションにまとめました。
半円形の梁の場合
①梁のフランジ部の幅、せい、両端部間の長さを測定します。
ボルト接合する場合は、最小縁端距離やガセットプレートのあたる範囲が直線であるかも確認します。
これで一応、取合う(取り付ける)ことは可能ですが、途中に間柱があったり、胴縁が取り付くのであれば、形状がひしゃげていてはいけません。
そこで、
②梁端部の角から適当な長さの点を設定します。
③その点から、反対側の梁端部の角までの長さを測定します。
逆側から②と③を実施すると、より正確になります。
この値が図面上の値と同じであれば曲率半径は正しいです。この場合も管理許容差は±3mm以内で良いでしょう。
半円形の梁の寸法測定の流れをアニメーションにまとめました。
建築物は、ほとんどは一点もの、オーダーメード品ですから、変則的な部材が現れることも少なくないです。
その都度、どこをどう測定すれば寸法精度、品質を維持できるか、考えながら検査することが大切です。