建築に携わる方であれば、AOQLという言葉を聞いたことがあると思います。ただ、呪文のようにその内容まで気にしなくても十分仕事はできるかもしれませんが、品質管理に絡むようになるとそうもいかなくなります。そこで、私が書いているブログの投稿を転載しましたので、興味があればご覧ください。
鉄骨製品検査に関わっているとよく「AOQL」という単語を目にします。
「検査水準はAOQL4.0%の第6水準です。」というのも良く出てきます。ではAOQLって何?第6水準って何?となるのですが、まずはAOQLとは何か?をお話しします。
AOQLとはAverage Outgoing Quality Limitの頭文字を取ったもの、日本語では「平均出検品質限界(へいきんしゅっけんひんしつげんかい)」って言います。
沢山ある製品の全てを検査するのが「全数検査」です。これなら完全な検査ができますが、製品を壊して検査をする破壊検査では全数検査はできません。だって検査で全ての製品を壊してしまったら、売ることのできる品物が無くなってしまうでしょ。
それに破壊検査ではないにしろ、全数を検査するにはすごく手間がかかることが多いんです(鉄骨製品の寸法精度や溶接部については全数検査は出来るけど。)。
そこで考えたのが部分的にサンプルを取って検査してもサンプルの傾向は全数の傾向と一致するのでは?ということ。こうして「抜取り検査」という方法が生まれました。AOQLはこの「抜取り検査」で出てくる検査の条件です。
抜取り検査は統計学に基づいているのであまり馴染みのない用語が出てきます。「検出」という言葉は聞いたことはあると思いますが、「出検」って聞いたことありました?私は最初「検出」の間違いかと思いました。調べてみると「出検(しゅつけん)」とは「検査が終了して検査工程から出てくる」という意味になります。反対は「入検(にゅうけん)」です。
そしてサンプルが抜き取られる「全体(母集団)」の中には、いろいろな製品が混ざっているので、ある似通った種類ごとにグループ分けします。これをロットと言います。建築鉄骨でいえば柱は柱でロットを作り、梁は梁でロットを作ります。柱と梁を混ぜたりはしません。
例えとしてA社製のピアノとB社製のピアノの音色の聴き比べをしようとしたときバイオリンやトランペットの音色のデータが混ざっていたら、何を調べているのかわからないでしょう?そんなことです。
そして検査はロットの合否をそのロットから無作為に抜き取ったサンプルを検査して判定します。無作為というのは良さそうなのばかり選んだりしないということ。検査者が個々の製品を選り好みしないで、エイヤッ!って抜き取るのです。
ロットの合否判定基準はサンプル中の不良品の数(割合)で決め、この判定基準を超えるとそのロットを不合格とします。
不合格ロットは全数検査して不良品はすべて交換したり修正して良品になります(そういう前提です)。
次に、こうして抜き取ったサンプルを検査したとします、あるロットには不良品は全く無かった時、出検品に不良品は含まれません(当たり前ですけど)。
ロットの中の不良品の数が増えてくると出検品に含まれる不良品の数も増えていきます。
そして不良品率が判定基準をオーバーすると、ロットごと不合格になります。ただし、抜き取られたサンプルが偶然良品ばかりのパターンもあるので、検査をすり抜けるロットも必ずあります。
ただ、不良品率が高いロットの不合格率は上がってくることになります。そして不合格のロットが増えると、結果的に出検品の中の不良品は減っていき、究極形の「すべて不良品で構成されるロット」では抜き取られたサンプルもすべて不良品なので全製品が排除され出検品の中の不良品の数はゼロになります。
この結果をまとめると↓のグラフみたいになります。
上のグラフの縦軸の「出検品の中の不良品率」は何度も抜取り検査をした結果の平均値になるので、平均出検品質(AOQ, Average Outgoing Quality)と言います。
このグラフからわかるようにAOQは極大値(Limit)を示します。この極大値をAOQLといい、この曲線をAOQL曲線と言います。
AOQLはあるロットに対して許容数を増やして行くと数値は大きくなります。つまりAOQLは数字が小さいほど厳しい検査を意味します。だって、出検品の中の不良品の数が少なくてもロットが不合格になってしまうんだもん。
よく設計図書の特記仕様書の検査の項目にAOQL2.5%とAOQL4.0%と書いてあって4.0%の方に◯がついていたりしますが、これは緩いほうの水準で良いですよということです。
では第6水準とは何でしょうか。国土交通省の出している「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)」という本の中にAOQL2.5%と4.0%のそれぞれの検査水準として第1水準から第6水準までのロットサイズ(1ロットを構成する検査個所数、品数)が書かれています。そしてサンプル数もこの中で20と決められています。
AOQL2.5%の第1水準はロットサイズは60です。サンプル数は20です。これは非常に厳しい検査です。1ロットが60個でその中から20個をとって不合格が2.5%を超えると不合格になります。一方AOQL4.0%の第6水準ではロットサイズは220です。サンプル数は20です。感覚的にもAOQL2.5% 第1水準とくらべて緩いというのが分かると思います。
ちなみにサンプル数20というのは「AOQL4.0%のロットサイズが220でそれの10%くらいで良いんじゃない、22ってのも半端だから20ということで」ということだそうです。
ここまで書いてきて、お気づきの方もいらっしゃると思いますが、AOQL4.0%で検査し、合格した場合、鉄骨造や鉄筋コンクリート造の建物を構成する鉄骨には不良品が全体の4%程度は含まれている可能性があるということになります。そりゃ完璧な建物に越したことはありませんが、この4%を0%とするには予想以上にお金がかかるんです。現実的に見て、建築物は非常に複雑なのでこの程度の不良品数であれば安全性には影響はないと判断されているということなのです。それぞれの部材が「持ちつ持たれつで建ってます」ということ。
だからと言って、最初から不良品を作っても良いはずはありません。なので鉄骨の製品検査における社内検査は全数検査が原則です。そこで見つかった不良品は修正や再作で良品になります。