今回、探触子のアクリルシューを張り替えたので、それについて少々。
職場で鉄骨溶接部の超音波探傷試験というの品質検査を行います。この超音波探傷試験というのは、超音波が異なる性質の場所で反射するという性質を利用して、溶接部内部の傷をチェックする試験なんです。
実際の試験では探傷機という機械に接続した探触子というセンサーから超音波が試験対象物の内部に発射されます。
もしも溶接部の内部に割れなどの不良部分があると超音波がそこから反射されるし、なければ超音波は反射されず鉄骨内部をさまよって消えていきます。
建築鉄骨の溶接部探傷では超音波が斜めに発射される「射角探傷」というのを行います。ここで使うのが「射角探触子」という道具です。
新品の射角探触子はアクリル製のくさびという部品が2mmほど探触子の躯体から飛び出していますが、検査対象が滑らかな圧延肌の鋼材であっても、検査をしていると探触子の接触面はすぐに摩耗してしまいます。
そのため、結構頻繁に接触面にアクリル樹脂でできたシュー(アクリルシューといいます)を貼りかえる(貼り増しする)必要が出てきます。
市販品のアクリルシューは先端角からの反射がなくなるようにギザギザに加工されていて使いやすいのですが、1枚¥100以上と頻繁に交換することを思うと少々高いんですよ。
そこで、ホームセンターで2㎜厚の透明アクリル板を購入してきて探触子のサイズに合わせ自作します。
しかし、弊社のある北海道の内陸部は厳冬期には最低気温が-20℃以下となることも珍しくなく、そのような時は工場内でも検査対象の材温が-10℃程度になってしまいます。
探傷時の屈折角は公称屈折角±2°の範囲でなくてはなりませんが、この公称屈折角は20°での屈折角です。鋼については10℃高くなると屈折角は+1°、反対に10℃低くなると-1°変化します。つまり、材温が-10℃であれば公称屈折角70°の探触子を用いた場合の実測屈折角は-3°変化するから67°位になり、許容差±2°を超えてしまいます。それに屈折角が小さくなると、接触限界距離でも直射では超音波が届かない場所が出てきてしまうんです。
そこで、アクリルシューを削って屈折角を調整します。ただ2mm厚のアクリルシューを削って調整すると、すり減ってすぐに使えなくなってしまうので、厳冬期には板厚3mmのアクリル板からアクリルシューを作ります。ところが、この厚さだとアクリルシュー先端角からのエコーがドカーンと帰ってきます(下の図を見てください)。
これでは非常に目障りだし、ときには傷エコーと被ってしまいます。これを避けるために、3㎜厚のアクリル板を使う場合はわざとアクリルシューを気持ち斜めに貼り付けてやります。これだけでも邪魔エコーはかなり低くなります。
それでもまだ先端からの邪魔エコーはL線を軽々と越えてしまいます。これを低くするにはさらにアクリルシューの先端角を超音波エコーを見ながら、紙やすりで少しづつ削っていきます。
完全には邪魔エコーは消せませんが、それでも探傷に支障を来たさなくなる程度まで低くすることができます。